2014年12月13日土曜日

「尖閣占拠」の打開方向を考える

  テレビの総選挙関連番組で11日夜、「尖閣諸島を中国が占拠したら、日本はどうするのか」との問いに、自衛隊出動を中心とする議論がありました。
 
 たしかに、こうした事態には現行法でも侵略と認定し、自衛隊法の「防衛出動」で自衛隊が「強力な武装をした集団に対する危害射撃」により制圧できるようになっています。ただ、そのさいは事実上の戦争状態と日本が判断したことになり、反撃を受けることも当然想定されます。それだけに理性ある慎重な対応が求められます。同議論への私見を整理しました。

  第一に、尖閣諸島の占拠は、国際的道理を持ちえない暴挙にほかなりません。なぜなら同諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土です。1895年日本が領有を宣言して以来、1970年までの75年間、中国側が一度もそれに異議を唱えてこなかったことにも示されています。また軍事力による占拠は、武力行使を禁止する国連憲章の原則をなし崩しにする不法行為でもあります。その占拠は国際的批判を広く浴びることは必至でしょう。

  第二に、「中国による占拠」との仮のシナリオ自体、確率はリアルに検証されるべきです。まず、日本と中国の経済的な相互依存関係は劇的に深まっています。日本の輸出総額に占める中国の割合は2割を超え、中国における日本企業(関連子会社含む)で働く中国人は約900万人を数えています。“戦争状態”への突入はそうした経済・通商関係を根底から打ち砕くことになります。また、尖閣には米軍基地も置かれており、「占拠」は世界最強の米軍を戦争に引き寄せる事態でもあります。

  第三に、万一、「占拠」があったとしても、無人の尖閣の場合、それはただちに国民の生命に結びつくことではありません。むしろ日本が軍事力を行使した場合、自衛隊員の命が奪われ、同時に相手側を殺す危険が一気に高まります。無人の尖閣に、人の命を犠牲にしてでも自衛隊は出動すべきかどうか、国民のなかでの深い議論が求められます。日本政府は「占拠」への喫緊の対応として、外交はじめ国連や第三国への働きかけなどにこそ取り組むべきでしょう。

  すでに日中間では民間レベルでも文化やスポーツ、農業の交流などが活発におこなわれています。観光も相互に盛んです。これらは戦争を食い止める重要な道です。こうしたとりくみをいっそう積極的に支援する政府こそ、いま待たれているのではないでしょうか。
 そして紛争を戦争にせず、徹底した話し合いによる解決を何よりも追求する平和の共同体を、北東アジア(日本、中国、韓国、北朝鮮など)で粘り強くめざす政府こそいま必要ではないでしょうか。(本稿は柳澤協二著「亡国の安保政策」を参考にしました)