2014年12月20日土曜日

民意に学びたい総選挙評

国際政治学者の藤原帰一氏が「朝日」12月16日付夕刊の「時事小言」で総選挙結果について論評しています。
 いろいろ述べていますが、中心的には自民党と共産党の選挙結果を取り出して、「政権政党と抵抗政党というお馴染みの図式が復活した」と指摘。この図式は「自民党の長期政権を保障する」と断じています。果たして妥当な見方でしょうか。

圧力にも8割余が投票せず
 今回の自民党の選挙結果について藤原氏は「勝利」「大勝」と記しています。たしかに獲得議席だけをみると、同党は衆院定数475の3分の2を維持しましたが、前回より4議席減らした通り、「解散前より大きく動いたわけでもな」く(「毎日」社説、15日付)、横ばいというのが正確な評価です。
 民意をもっともよく反映する比例代表での同党の得票は全有権者のわずか17%でした。にもかかわらず大きな議席を占めたのは一選挙区から一人を選ぶ小選挙区制によるものです。実際、小選挙区で同党の得票率は48%でしたが、議席占有率は75%にもなりました。
  有権者は自民党に「白紙委任」(藤原氏)などしなかった。自民党が総選挙公示前、NHKや在京テレビ局に選挙報道の「公平中立」を求める文書を送るなど圧力とも取られることをおこなっても、8割余の有権者は同党に投票しなかったのです。

先が見えない自民党政治 
 次世代の党は藤原氏も「壊滅的な打撃」と指摘するように、19議席から2議席へと大後退しました。今回、自主憲法の制定や集団的自衛権の確立、原発の活用、アジア太平洋戦争の侵略性の否定などを公然と訴えていた通り、有権者にそうしたタカ派路線、排外主義が受け入れられなかったといえます。他方、同じような主張を唱える安倍政権・自民党は有権者の支持を失うことを恐れ、正面からそれらを提起せずやり過ごしました。自民党は次世代の党の惨状を対岸の火事などと放っておけないはずです。
  自民党の選挙結果を藤原氏が手放し同然に評価しても、リアルにその内容をみるならば、先が見えない自民党政治という実像が浮かび上がってくるのです。

どの党よりも上回る比例の伸び率
 藤原氏は自民党の長期政権を保障する理由として、共産党が「政権を争う存在ではない」からだと述べています。
  しかし共産党は今回、比例代表で前回の369万票から606万票へと、1・64倍の票を獲得。この伸び率はどの党よりも上回っています(自民党1・06倍、公明党1.03倍、民主党1.02倍、社民党0.92倍、維新0.68倍)。
  共産党は今回の躍進で議案提案権を獲得し、活躍の舞台を広げています。すでに議案提案権を得た参議院で同党は「ブラック企業規制法案」を提出し、厚労省がブラック企業の重点監督と、悪質な企業名公表の通達を出しました。政権を取る前から、政治を動かしているのです。
 また同党は自民党政治への批判にとどまらず、「消費税に頼らない別の道」や「北東アジア平和協力構想」の対案を示すなど、自民党政治とは違う政策的立場ももっています。 
 
 
自民党に完勝した要求連合
 加えて注目したいことは、藤原氏がまったく触れていないことですが、沖縄で共産党も加わる「オール沖縄」が「辺野古新基地建設に反対」を掲げて4つの小選挙区すべてで勝利したことです。要求で一致する保守・革新・無所属の連合が国政選挙で自民党と対決し、完勝するということは、日本の政治史上まったく新しい出来事です。
  こうした活躍を見せる共産党について、こんごも政権を争う存在ではないと、断言できるのでしょうか。

  結局、藤原氏の総選挙論評は「お馴染みの構図」と決めつける余り、民意から学ぶことを怠った「小言」といわなければならないでしょう。(写真は「東京」12月15日付)