2014年11月19日水曜日

へたばっちゃいけない   高倉健さんを偲んで

  撮影現場では暖もとらず、準備ができるのを立ったまま静かに待ち続ける、10分近くある長いセリフの場面でもテストから一言のミスもなく、緊張感みなぎる芝居を演じる、寒さに震える子役にカイロをそっと手渡す。

  映画「鉄道員」(1999年)の撮影現場での俳優・高倉健さんの様子です。映画づくりに対するその真摯な姿勢からは、いつのまにか周囲に集中と気迫が伝播していったといいます。そして同映画では日本の社会の営みを根底で支える庶民の哀歓を、心がポッと温かくなるように演じて見せてくれました。

  映画「あなた」(2012年)の撮影時、高倉さんは東日本大震災で被災した少年の写真を台本に貼り付けて臨んでいました。同映画の監督で、高倉さんが最も信頼を寄せていた降旗康男さんは、「何があっても生きるという少年の姿からへたばっちゃいけない、まだがんばろうと感じたのでは」と推察しています。悲しみに寄り添う優しさや、前に向かう強い生き方が伝わってくるようです。
 
 こうした高倉さんについての感想はいま、その訃報に接した多くの人びとから語られています。今日の日本社会で求められる人間像や生き方が改めて浮き彫りになっているのではないでしょうか。
           (写真は「皇帝ダリア」、11月19日撮影)