2015年4月3日金曜日

書評 なかにし礼『平和の申し子たちへ 泣きながら抵抗を始めよう』(毎日新聞社)

列車の床がミシン針のように
 書き出しは集団的自衛権の閣議決定日から記されています。まさに他国の戦争への参戦という同問題に反対する、骨太で心を打つ詩集です。
 その平和への深い思いは自らの体験に根差しています。
 旧満州の牡丹市(現中国黒竜江省)で生まれ、終戦を迎えたのは7歳になる直前。その4日前、ソ連軍が間近に迫り、日本陸軍の精鋭といわれた関東軍は市民を置き去りにして、軍用列車で逃走します。
 著者が紛れ込んだ同列車はソ連機の機銃掃射にさらされ、列車の床がミシン針のように打ち抜かれました。撃たれて、どくどくと血を流す軍人。死体を連れて逃避行はできないと、列車の窓から次々に捨てられる死体。中国人がそれらに群がり、裸にし、時計、指輪、そして金歯まではずされる光景が続きました。

平和の行動の中へ逃げよう
 本書はこうした戦争の残酷さについて、ありありと想像できる内容ですが、それに止まりません。
 いま戦争の恐怖はそこまで来ている、逃げるんだと主張する著者。命よりも大切なものはないからだといいます。どこへとの問いには、「平和を堅持する行動の中へ」と、抵抗=たたかいを勇気をもって呼びかけているのです。
 加えて、「戦後レジームからの脱却」(安倍晋三首相)に対して、「平和だった戦後のどこがいけないのか。戦後に対して失礼だ」(「毎日」2013年8月29日付夕刊)と的確に指弾する通り、著者にとって抵抗する相手も明らかであり、鼓舞されます。

幸せは命と自由を保障する平和
 「知りたくないの」「北酒場」「グッド・バイ・マイ・ラブ」など数々の名曲を生み出した著者。本書でも作品「赤い風船と白い男」はとくに心洗われる思いがします。
 再びがんになり、手のほどこしようがないと言われたら、著者は街角に立って少年や少女、お年寄りに風船を手渡したいといいます。そのときの衣装は白い雲がなによりも好きなので白、セリフは「幸せをあなたに」。風船の色は赤です。赤は命の色、フランス革命のとき、赤は自由の色でもあったからです。
 そうです。著者にとっての幸せは、命と自由を保障する平和なのです。
 私も泣きながら抵抗を始めたいと思いました。