2021年1月14日木曜日

半藤一利さんを偲ぶ

  「髪が薄くなると、寒さも応えてね」。14年前の冬でした。喫茶店での取材後、商店街を歩きながら、みずからの帽子姿をユーモアも交えて語っていた姿が目に浮かびます。作家の半藤一利(はんどう・かずとし)さんが90歳の生涯を閉じました。 

東京大空襲の被災者でした。中学2年のとき、向島の自宅が全焼。自身、雨のように襲う焼夷弾のなか、葛飾寄りの中川で舟に乗り、川に飛び込んだ人を引き揚げていましたが、手を引っ張られて川の中に。

「水面が分からず、水中で右往左往していると、脱げた長靴が落ちていった。逆が水面だと分かり、水面に出て助けられました。目の前で、たくさんの人がおぼれるなど、無残に死んでいくのを見ました」 

空襲体験が平和や自由を追求し続ける生き方の礎となったことは、想像に難くありません。
  米軍占領下での東大の学生時代は、政府に批判的な学者等を学園から追放するレッド・パージ(1950年)に反対し、ピケラインの最前列に立ちました。

安倍晋三・前首相による自衛隊明記の憲法改定論についても、「とんでもないこと」と厳しく批判。「平和憲法を持つ日本人は世界に『お互いに戦争をやめよう』と言うことができます。それをグングン進めたほうが、よほど人類のためになります」と語り、戦争放棄の憲法9条を国際的に生かすことの意義を強調しました。

 

平和のためには「妥協しているとダメだ」とも取材時に語った半藤さん。気骨ある生き方には一つの規範が示されていました。