2018年6月29日金曜日

前川喜平さんと夜間中学

 神奈川県厚木市の夜間中学「えんぴつの会」(岩井富喜子代表)の教室は、古くからの商店街の一角にありました。ドアの横に一枚の紙が貼ってあるだけなので、最初は通り過ぎてしまいました。 
 同教室は生徒それぞれが数学や英語、国語などの教材を持ち寄り、スタッフから支援を受ける一対一方式で運営されています。前文科省事務次官の前川喜平さんもスタッフの一人です。

 前川さんは教室に着くなり、持参したパンとペットボトルのお茶を取り出しました。スタッフの控室はなく、教室の空いている席で食べ始めました。
  この日の氏の担当は、日本国憲法全文の冊子を用意した渡部フサ子さん(83)の学習(写真)。向き合いながら憲法の一条一条をゆっくり読み上げ、説明を続けます。説明用に使う紙は自分のカバンから取り出し、筆記具は百円ショップで売られているようなボールペンでした。
  憲法41条の「国会は、国権の最高機関」については、「なぜかというと、国会議員を主権者である国民が選んでいるからです」と詳述。国会議員は国庫から相当額の歳費を受けると記す49条については、歳費や立法事務費が議員一人に年間2000万円以上払われていると紹介しつつ、「企業・団体献金は禁止しないといけないですね。大企業が特定の政党に献金し、法人税を下げてもらうという大企業に有利な政治が起こるから」と付言しました。

 憲法の勉強は途中休憩をはさみ、1時間余続きました。「私にあわせて話をしてくれたので、わかりやすかった」と、前川さんに謝意を示した渡部さん。1945年8月1日の富山空襲で自宅が焼失し、小学校に満足に通うことができませんでした。その「学ぶ機会が欲しい」との渇望の声は、厚木での夜間中学開設のきっかけになりました。
 前川さんは、菅義偉官房長官から「地位に恋々としがみついていた」と、保身に走っていたかのように非難されたことがあります。学ぶ機会を十分得られなかった人を手弁当でサポートする人物が「地位に恋々としがみつく」?。眼前にあるのは、真夏日が続くなかも学ぶ意慾を持つ人びとのもとに足を運び、温かいまなざしを注ぐ姿です。
 加計学園問題で「総理のご意向」などと書かれた文書の存在を証言し、行政の公平性がゆがめられたことを示した前川さん。その勇気と見識は人間的な優しさと一体だと、改めて思いました。