船室は雑魚寝型だった。船内の食堂にいそいそと出向く。津軽海峡はイカが豊富な漁場だ。「連絡船名物」のイカ刺し定食を迷わず注文した。
どんぶりご飯・味噌汁・漬物付きの250円。イカは細切りされ透明感があった。地元流の生姜醤油で口に運ぶ。歯ごたえのある食感とともに、上品な旨みや甘味が口いっぱいに広がった。見知らぬ土地に向かう私の背中を押してくれるようだった。
赴任先のまちに降り立つと、桜が満開だった。故郷の3月にはない淡い桃色の光景がまぶしかった。
あれから40年余。同じまちに住み続け、社会進歩の目標も諦めなかった。食卓にはときどきイカ刺しが並ぶ。22歳の旅立ちのときの気持ちを思い出させてくれる。