2015年1月11日日曜日

政治風刺の封殺は「戦争ができる国」への道

 息苦しい社会が到来していませんか。
  お笑いコンビの爆笑問題がNHKの新春番組で政治家のネタを没にされた問題。NHKの籾井勝人会長は8日、「個人に打撃を与えるのは品性がない」「やめた方がいいのでは」と述べています。

異論に耳を傾けない安倍政権
  籾井氏が政治家を個人一般に置き換えているのは作為的です。政治家・権力者が笑いの対象にされることは古今東西よくあるからです。チャップリンが監督・主演を務め、日本でもヒットしたアメリカ映画「独裁者」(1940年)も、ヒトラーの独裁政治を風刺しつつ批判する作品でした。
  爆笑問題による政治家のネタの内容は定かではありませんが、田中裕二さんは「全部ダメって言うんだよな」と明らかにし、太田光さんも「(NHK側の)自粛なんですよ。…問題を避けるための」といいます。
  いま政治風刺が封殺されるなら、それを一番喜ぶのは、権力者・安倍晋三首相であることは衆目の一致するところです。すでに同政権では自分たちの政治への異論に耳を傾けない手法が常態化しています。
  集団的自衛権問題を追及した長崎の被爆者に首相が「見解の相違です」と告げて去る、テレビで有権者のアベノミクス批判の街頭インタビューに首相が不快感を示す等々。
  さらには総選挙公示前、自民党がNHKや在京民放局に選挙報道の「公平中立」なる文書を送って出演者の選定などにまで細かく口を出し、そのごテレビ各局の扱う選挙関連の話題は激減しました。
 今回のNHKの行為も、同政権の意に沿うものであったといっても過言ではないでしょう。

表現の自由の歴史的意義
  大衆芸能には戦時体制下、演目を封殺されるという痛苦の経験があります。「禁演落語」。1941年(昭和16年)、落語界の自粛の形をとって、事実上、上演を禁じられた廓噺、酒飲み、泥棒など53演目の落語のことです。戦後、同落語の制限は解除されました。
  いま国民に「永久の権利」として憲法で保障される言論等、表現の自由は、こうした歴史の教訓の上に得られたものです。報道機関が「戦争ができる国」をめざす権力者の意に沿い、その言い分を伝えるだけでは、歴史に目をふさぐものであり、存在意義などないに等しいといわなければなりません。今回も当事者から自粛したと指摘されるNHKは、国政に物申すことを主権者の役割としてしっかり保障すべきでした。

サザンの歌詞にも意見を述べたが
  籾井氏は上記の会見で、サザンオールスターズの紅白歌合戦での歌がネット上などで政権を批判したと受け取られていることについても、「サザンの歌って、わーわーわーわーって歌」「言葉よりもリズムと激しい歌い方が持ち味」と語っています。
  サザンの歌詞の意義を退ける発言でしたが、今回の「ピースとハイライト」の歌詞には「固い拳を振り上げても心開かない」「地上に愛を育てようよ」などと記されています。視聴者からは「歌詞のように、…人を愛したい、地球を大切にしたい」(「朝日」9日付、「声」欄)と共感を呼んでいます。
  氏はいたずらに政権擁護に走ると、それは広く国民から批判を浴びる道であることを知るべきでしょう。(写真は、薄氷の張る水田=11日早朝)