2022年10月24日月曜日

国史跡の景観を守ろう 

  

国史跡の真横に

国指定史跡「相模国分寺跡」(神奈川県海老名市)隣接地の高層マンション計画。市民の理解が得られない中、事業者(マンション大手の明和地所)は「ぼくらの土地。法令に抵触していない。計画通り進める」と強弁します。このまま許されるのでしょうか。

14階建てが家のすぐそばに」「広々とした空間が台無しに」

8世紀中頃に建立された相模国分寺。東西240㍍、南北300㍍以上という広大な寺域に、各地の国分寺の中でも最大級の塔・金堂・講堂などが配置されていました。その寺跡は101年前の1921(大正10年)、国の史跡に指定。史跡の広場は開放的な芝生が広がります。

朝は地域住民のラジオ体操に、昼間は園児や小・中学生の遊び場として使われるほか、盆踊り大会、お茶会、能の舞台にも活用。市民の憩いの場であり、これまで周囲に高層の建物を建てようとする事業者はいませんでした。

ところが今回の建物は14階建て、高さ43㍍。加えて、隣接する民有地との最短が50㌢という設計です。近隣住民は、「大変な圧迫感。14階もの建物が家のすぐそばにそびえ立つことを想像してほしい」と住環境の悪化に憤ります。

広場を利用する市民も、「広々とした空間が台無しになる。今回認められると、続いて史跡の周りに高い建物が建てられかねない」と良好な景観の後退に不安を募らせています。

 「あり得ない」計画

相模国分寺跡周辺は、高さ制限のない都市計画法・第1種住居地域に設定されています。くわえて海老名市景観条例(09年)の景観推進計画は15階建てまでの建設を可能としています。

他方、同じ国史跡・国分寺が所在する東京都国分寺市の場合、史跡周辺は都市計画法の第1種低層住居専用地域で、高さが10㍍に制限されています。海老名の14階、高さ43㍍の建築は「あり得ない」(担当課)計画です。

また、全国には国史跡の国分寺跡が46あります。これらの隣接地で今回のような批判を集める建設計画は文化庁によれば、「聞いたことがない」。海老名の14階建てが強行されるならば、国史跡・国分寺跡の隣接地では全国初の高層建物となり、「海老名の恥」との市民の訴えはけっして誇大な指摘ではありません。

合意形成へ 歴史的な役割を

今回の計画が景観問題を抱えていることは内野優市長も、「景観としてはどうかとは思う」(「読売」111日付)と認めています。相模国分寺跡と周辺地域は市景観推進計画でも、「景観的な調和」が期待されているからです。

市は、事業者と市民との合意形成を真剣に追求すべきでしょう。まちづくり条例(18年)は、健全な居住環境の確保のため、市と市民、事業者の相互理解や、事業者が市民に十分な説明を行い、意見を計画に反映させることなど、まちづくりへの市民参加をうたっています。市は事業者を「指導はできない」(「読売」同前)といいますが、同条例第4条には良好なまちづくりの推進のため、市が助言・指導を行わなければならないと明記されています。

1300年にわたり先人たちから受け継いできた海老名市の貴重な史跡と景観。市は市民とともに、守り育む歴史的な役割を担うことが強く求められています。