引退会見で印象的だったのは、一番の思い出として、1999年ナビスコ杯(現ルヴァン杯)決勝のPK戦での失敗を挙げたことだ。「狙ったところに蹴る大切さをすごく感じた」という。
通常、スポーツ選手の引退会見では一番の思い出というと、うれしかった場面を挙げる例が多いように思う。だが小笠原選手は失敗例を“引きずっていた”。21年の現役生活中、そのほとんどの期間を。
その間、鹿島の17のタイトル獲得に貢献し、MVPにも輝いた。悔しさをそれに止まらせず、前向きのエネルギーに転化させ続けてきたことは疑いない。自分を律する力は並々ならぬものがあったのであろう。
同選手は人間像や生き方でも特筆されるべき存在だ。東日本大震災の復興支援では遊び場を失った子どものためにグラウンドを完成させた。同僚の黒人選手が試合中、相手チームの選手から差別的言辞を吐かれたさいは人権侵害だと先頭に立って抗議した。
胸を打たれる、人間の尊厳を守るそうした行動も、前向きの精神力と結び付いていたはずだ。生き方の一つの規範として教訓的だと思う。
小笠原選手には、「お疲れさま」の言葉と、「今後の人生は長い。さらなる活躍を」のエールを送りたい。